「倒産防止共済を貸借対照表に資産計上する経理方法と絶対提出しないといけない1枚の書類」という記事に意外と反応をいただいたので、もう少し根拠について書きたいと思います。
同じ記事に入れてもよかったのですが、ここまでくると税理士が知っていればいいレベルの知識になってしまうので、本当に参考の参考です。
倒産防止共済を費用にせずに資産にしても、なぜ節税になるのか?という答えですが、それは
- 損金経理要件:なし
- 明細書添付要件:あり
と、他の制度に比べて特殊だからです。
減価償却費は損金経理要件
まずは損金経理の話からです。
減価償却費などは、損金経理要件があります。
「減価償却費」という費用として経理することが条件になります。
法人税法第2条(定義)
二十五 損金経理 法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう。
下記の法律は条文が長いので、色がついているところだけ見ていただければよいのですが、
(減価)償却費として損金経理した金額=損金経理額
が条件になっています。
法人税法第31条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第22条第3項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(略)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(略)に達するまでの金額とする。
個人事業主は減価償却は強制ですが、法人は減価償却を自由にすることができます。
例えば今年は赤字なので減価償却を止めて、減価償却費を0円にすることもできます。
当然、損金経理した金額も0円なので、税務上も0円です。
倒産防止共済に損金経理要件はない
これに対して、法人税の中でも特殊なのが倒産防止共済です。
租税特別措置法第66条の11(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 略
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
これまたいろいろ書いてありますが、重要なのは支出としか書いていない点です。
支出というのは、お金を支払うということです。
つまり、倒産防止共済の掛金を支払えばOKです。
先ほどの減価償却のように「(減価)償却費として損金経理した金額」みたいなことは言っていません。
この条文は続きがあります。
租税特別措置法第66条の11(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
2 前項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
法人税の確定申告をするときに「損金算入に関する明細書の添付」がないと「適用しない」とあります。
裏を返せば、 損金算入に関する明細書の添付があれば適用できるのです。
これが明細書添付要件です。
明細書とは、法人税申告書別表十(七)のことです。

ちなみにもう1枚、「適用額明細書」という書類も添付する必要があります。
適用額明細書は、節税をするときには必須の書類なので、詳細は省略します。
つまり、倒産防止共済の条件は
- その年度に支出すること(支出要件)
- 申告書に別表十(七)を添付すること(明細書添付要件)
- 適用額明細書を添付すること(明細書添付要件)
この3つです。
この中に、損金経理要件はありません。
1年で800万円はなぜダメなのか?
支出要件の注意点です。
「支出でいいなら、1年で最大の800万円払えばもっと節税になるじゃないか?」
と思うかもしれませんが、できません。
法律に対する国税庁の解釈を示した通達では、前納が認められるのは1年以内だけです。
租税特別措置法関係通達66の11-3(中小企業倒産防止共済事業の前払掛金)
中小企業倒産防止共済法の規定による共済契約を締結した法人が独立行政法人中小企業基盤整備機構に前納した共済契約に係る掛金は、前納の期間が1年以内であるものを除き、措置法第66条の11第1項第2号に掲げる掛金に該当しない。
仮に800万円の支払いができても、1年以内ものだけで、1年を超えるものは翌年度や翌々年度で節税になります。
1年を超えるものは節税もできなければ、使うこともできないので、全く意味がありません。
明細書のうっかり添付漏れは救済なし
明細書添付要件なので、明細書(別表十(七))の添付をうっかり忘れると、例えば240万円支払っていても使えません。
租税特別措置法第66条の11(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
2 前項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
実際に税理士が明細書の添付を忘れて、依頼者から損害賠償請求をされた事例があります。
条文の後半では、「税務署長がやむをえない事情があると認める場合」は後出しOKとありますが、これはレアケースです。
うっかり忘れたことまでは救済してくれません。
そのため、倒産防止共済で節税するときには、絶対に明細書(別表十(七))の添付を忘れないようにしましょう。
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