令和5年(2023年)10月1日から消費税の「インボイス制度」がはじまります。
これがはじまると、今まで消費税と関係なかった「免税(めんぜい)事業者」も、消費税を納税する「課税(かぜい)事業者」を選択するケースが増えるでしょう。
この影響で、法人成りの節税メリットの1つ、最初の2年間の免税が使えなくなる可能性があります。
しかも 令和5年10月1日からはじまるということは、2年間丸ごととれる最後はその2年前の令和3年10月1日設立の法人です。
令和3年10月2日以降に設立すると、免税の期間が2年未満になります。
※正確には10月2日は土曜日なので設立できません。
【注意】
インボイス制度自体が延長されると、今回の話は変わってきます。
既に2回延長しているのでもう延長はないかもしれませんが、そのときの世の中(というかコロナ)次第です。
インボイス制度のインパクト
インボイス制度をご存じの方は、ここは飛ばしてください。
例えば100万円の売上に消費税10%を上乗せして110万円をもらっているとします。
<現在>
- 課税事業者:110万円
- 免税事業者:110万円
同じです。
しかし、課税事業者は消費税を納税する必要があります。
売上5,000万円以下ならふつう簡易課税を選択します。
例えばサービス業は税抜き売上の5%相当(第5種事業)を納税するので100万円×5%=納税する消費税5万円になります。
<現在(手取り)>
- 課税事業者:110万円-納税する消費税5万円=105万円
- 免税事業者:110万円
免税事業者の方が5万円多いですね。
どっちがいいですか?
可能なら免税事業者の方がいいですね。
取引先から10%相当の消費税分もらっているのに、納税の必要がないのでそのまま自分のポケットに入ります。
<インボイス制度導入後>
- 課税事業者:110万円
- 免税事業者:100万円
インボイス制度が導入されると、免税事業者は消費税10%相当の上乗せなしに売上をもらうことが多くなると思います(本当にどうなるかは取引先次第ですが)。
もう消費税をポケットに入れることができません。
<導入後(手取り)>
- 課税事業者:110万円-消費税5万円=105万円
- 免税事業者:100万円
今度は課税事業者の方が5万円多くなります。
どっちがいいですか?
消費税を納税したとしても手取りが多い課税事業者を選択したくなりますよね。
そういうわけで、消費税の納税があっても課税事業者を選択する人が増えるというのがインボイス導入後の世界です。
法人設立後2年間免税の常識が崩れる
ここから本題です。
個人事業主から法人成りをした場合、法人設立後、2年間は免税事業者になることが可能です(資本金1,000万円未満が条件)。
ところがインボイス制度が令和5年10月に導入されると、手取りが減るのを避けるために(本当はイヤだけど)課税事業者を選択するケースが増えるでしょう。
以下、令和5年10月1日に課税事業者を選択した場合について、具体的に見てみましょう。
令和3年9月までに設立する法人
令和5年10月まで2年超あるので、2年間の免税を全部とれます。
令和3年10月1日に設立する法人
- R3.10/1~R4.9/30:1年間免税
- R4.10/1~R5.9/30:1年間免税
- R5.10/1:課税事業者を選択
とピッタリ2年間免税です(「R3」は「令和3年」のこと)。
2年フルで使えるタイムリミットは令和3年10月1日です。
令和3年10月2日以降に設立する法人
ここから免税期間が2年未満です。
例1) 令和3年11月1日設立
- R3.11/1~R4.10/31:1年間免税
- R4.11/1~R5.9/30:11か月間免税
- R5.10/1:課税事業者を選択
→免税期間は1年11か月間
例2) 令和4年4月1日設立
- R4.4/1~R5.3/31:1年間免税
- R5.4/1~R5.9/30:6か月間免税
- R5.10/1:課税事業者を選択
→免税期間は1年6か月間
例3) 令和5年9月1日設立
- R5.9/1~R5.9/30:1か月間免税
→免税期間は1か月間
どんどん免税の期間が短くなっていくことがわかると思います。
法人成り・法人設立のシミュレーションに注意
さて、この話をすると
「ヤバい! 今すぐ法人成りしないと!」
となるかもしれませんが、必ず事前にシミュレーションをしましょう。
また、既にシミュレーションをしていても、最初の2年間は消費税が免税という前提でやっているかもしれません。
その場合でも令和5年10月以降に課税事業者になっている前提で計算し直した方がいいでしょうね。
一方、
- 現在、売上が1,000万円もない免税事業者の場合
- 相手が消費者のみでインボイスを必要としない場合
- 消費税がかからない事業(住宅の賃貸とか)がメインの場合
は、法人成りを急ぐ必要もないでしょう。
ひとり会社をゼロから設立する場合も、そんなに売上を法人で計上しないでしょうから、特に慌てる必要はないと考えます。
シミュレーションは消費税だけでなく、いろんな税金・社会保険料なども関係するので、税理士と相談するのをおすすめします。